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Volume I • Explainer Editorial
THE GLOBAL DISCOURSE世界情勢地誌記録デスク
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    THEMATIC PLATE — MIGRATION & DISPLACEMENT
    No. 08

    難民と国内避難民は何が違うのか ― 世界で今起きている人口移動を読み解く

    難民と国内避難民は、どちらも住まいを追われた人々ですが、国境を越えたかどうかで受けられる保護の枠組みが大きく異なります。シリアやスーダンをはじめ、世界各地で今も新たな人口移動が続いています。

    夜明けの難民キャンプに並ぶ無人のテント、避難生活を象徴する風景
    No. 08 — FIELD PLATE

    難民と国内避難民、その違いとは

    国境を越えて逃れた人と、越えられないまま国内にとどまった人。同じように住む場所を追われても、この二つの立場は、国際社会での扱われ方がまったく違います。

    難民とは、迫害や紛争、暴力などを理由に自国を離れ、国境を越えて他国に逃れた人を指します。1951年に採択された難民条約と、それを補う1967年の議定書がその法的な土台であり、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)がこの枠組みのもとで保護と支援にあたっています。難民条約には、迫害の恐れがある国へ本人を送り返してはならないという原則も含まれており、受け入れ国はこの原則に一定の責任を負うことになります。

    一方、国内避難民(IDP)は、紛争や災害によって住まいを追われながらも、国境を越えずに自国内にとどまっている人を指します。国境を越えていない以上、国際的な難民保護の枠組みは適用されません。国内避難民を対象とした指導原則にあたる文書はありますが、これは法的拘束力を持たない指針にとどまり、保護の第一義的な責任はあくまで本人が暮らす国の政府にあるとされています。

    この違いは、単なる呼び方の問題ではありません。

    国境を一本越えたかどうかで、受けられる保護の枠組みも、頼れる国際機関の権限も、大きく変わってしまう。実務上は、紛争から命からがら逃げてきたという点で難民と国内避難民の状況はほとんど変わらないにもかかわらず、法的な立場には大きな溝があるのです。この矛盾は、支援の現場でもたびたび指摘されてきました。

    もともと1951年の難民条約は、第二次世界大戦に関連してヨーロッパで生じた難民を念頭に置いた条文でした。対象となる地域や時期を限定していたため、その後に世界各地で相次いだ紛争や迫害には、そのままでは対応できない部分があったのです。この限定を取り払ったのが1967年の議定書で、これにより難民条約は地域や年代を問わず、世界中の難民に適用される普遍的な枠組みへと広がりました。今日、難民という言葉が国や時代を問わず使われているのは、この改定があったからです。

    国内避難民については、統括する専用の国連機関が存在するわけではありません。実際の支援は、UNHCRをはじめとする複数の機関が現地の政府と協力しながら分担して担うのが一般的で、状況によって関与する機関の顔ぶれも変わります。この体制の緩やかさこそが、国内避難民支援の難しさを端的に物語っています。

    世界で今起きている難民・避難の現状

    2011年に始まったシリア内戦は、21世紀最大級の難民危機のひとつとして知られています。政権と反体制派の対立から始まった紛争は長期化し、多くの住民がトルコ、レバノン、ヨルダンといった周辺国、さらには欧州へと逃れました。人口の相当割合が住まいを追われたとされ、周辺国の受け入れ体制には今も大きな負担がかかり続けています。

    近年、新たに世界的な規模の危機となっているのが、2023年に激化したスーダンの紛争です。首都ハルツームを含む各地で武力衝突が発生し、国内にとどまったまま避難を強いられた人々に加え、隣国のチャドや南スーダン、エジプトなどへ逃れた人も急増しました。国内避難民と難民の双方が同時に、しかも短期間で大量に発生したという点で、スーダンの危機は特異な状況にあります。

    チャドのような受け入れ国では、もともと限られていた自国のインフラや水資源に、急増したスーダン難民の受け入れが重なり、地域社会への負担が一段と重くなっています。レバノンやヨルダンも、シリア難民の受け入れによって人口比で見ると非常に高い割合の難民を抱えてきた国です。周辺国の側から見れば、これは単なる人道支援の話ではなく、自国の経済や社会保障をどう維持するかという、切実な国内問題でもあるのです。

    こうした大規模な紛争ばかりが注目されがちですが、南アジアや東南アジアにも、看過できない人口移動の実態があります。ミャンマーのラカイン州から逃れたロヒンギャの人々は、2017年の大規模な避難以降、その多くがバングラデシュのコックスバザール周辺に身を寄せています。世界有数の規模とされる難民キャンプが同地域に形成されており、長期化する避難生活の中で教育や医療といった課題が積み重なっています。

    世界全体で見ると、紛争や迫害によって住まいを追われた人の数は、ここ数年で過去最多水準を更新し続けているとされます。数字だけを追うと実感が湧きにくいかもしれませんが、その統計の一人ひとりに、逃げてきた理由と、逃げた先での暮らしがあります。

    難民支援に関わる国際機関とNGOの役割

    難民保護の中心的な役割を担っているのが、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)です。難民の登録や法的地位の確認、緊急時のシェルターや物資の提供にとどまらず、長期的な解決策を模索することもUNHCRの重要な任務とされています。

    UNHCRが掲げる長期的な解決策は、大きく三つに分類されます。紛争や迫害の原因が解消された後に故郷へ戻る「自主帰還」、逃れた先の国にそのまま定住する「現地統合」、そして第三国が受け入れを引き受ける「第三国定住」です。どれか一つが常に望ましいわけではなく、置かれた状況によって現実的な選択肢は変わってきます。

    難民支援の現場では、UNHCR以外にも数多くの国連機関や国際NGOが連携しています。世界食糧計画(WFP)は避難先での食料支援を担い、国連児童基金(UNICEF)は子どもの教育や保健を支え、国際移住機関(IOM)は移動や登録の実務面で協力しています。加えて、各国の地域社会に根ざした難民NGOが、現地の実情に即した細やかな支援を積み重ねている例も少なくありません。

    こうした複数の機関が役割を分担しながら動く体制は、ひとつの組織だけでは対応しきれない規模の危機に、ある程度の広がりをもって対応するための工夫でもあります。SDGsが掲げる目標の中にも、平和で公正な社会や、目標達成に向けた国際的なパートナーシップの重要性が含まれており、難民・国内避難民をめぐる国際協力は、その理念とも重なり合う部分があります。

    もっとも、支援の資金や体制は常に十分とは限りません。危機が同時に複数発生すると、限られた資源をどこに優先的に振り向けるかという難しい判断が、支援機関には常につきまとうのです。

    FAQ

    よくある質問

    難民とは何ですか?

    難民とは、迫害や紛争などを理由に自国を離れ、国境を越えて他国に逃れた人を指します。1951年の難民条約とその後の議定書に基づき、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が保護と支援にあたっています。

    国内避難民とは何ですか?

    国内避難民(IDP)とは、紛争や災害によって住まいを追われながらも、国境を越えずに自国内にとどまっている人を指します。難民のような国際的な保護の枠組みは適用されず、保護の責任は本人が暮らす国の政府にあるとされています。

    難民と国内避難民の違いは何ですか?

    最大の違いは、国境を越えたかどうかです。難民は国境を越えたことで国際法上の保護を受けられますが、国内避難民は自国内にとどまっているため、その国自身の対応にゆだねられる部分が大きくなります。

    なぜ難民と国内避難民を区別する必要があるのですか?

    適用される法的枠組みと、頼れる国際機関の権限が異なるためです。難民には難民条約に基づく明確な保護義務が発生しますが、国内避難民の保護は各国政府の対応力に左右されやすく、支援の届き方に差が生まれやすいという課題があります。

    シリア内戦は難民問題にどのような影響を与えましたか?

    2011年に始まったシリア内戦は、21世紀最大級の難民危機のひとつとされています。多くの住民がトルコ、レバノン、ヨルダンなどの周辺国や欧州へ逃れ、長期化する避難生活が周辺国の受け入れ体制にも大きな負担をもたらしています。

    スーダンの紛争は現在どのような状況ですか?

    2023年に激化したスーダンの紛争では、国内にとどまったまま避難を強いられた人々に加え、隣国へ逃れる難民も急増しました。国内避難民と難民が同時に大量発生したという点で、世界的にも深刻な危機のひとつに数えられています。

    ロヒンギャ難民はどこに逃れていますか?

    ミャンマーのラカイン州から逃れたロヒンギャの人々は、2017年の大規模な避難以降、その多くがバングラデシュのコックスバザール周辺に身を寄せています。世界有数の規模の難民キャンプが同地域に形成されています。

    UNHCRとはどのような機関ですか?

    UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)は、難民条約に基づいて難民の保護と支援にあたる国連機関です。難民の登録や法的地位の確認から、自主帰還・現地統合・第三国定住といった長期的な解決策の模索まで、幅広い役割を担っています。

    ある国が難民の受け入れ国になるのはなぜですか?

    多くの場合、地理的に紛争地域と近く、逃れてきた人が最初にたどり着きやすい国が受け入れ国になります。トルコやレバノン、バングラデシュのように、近隣の紛争や迫害の影響を直接受ける形で、大規模な受け入れを担ってきた国も少なくありません。

    難民と経済移民の違いは何ですか?

    難民は迫害や紛争など生命に関わる危険から逃れてきた人であるのに対し、経済移民はより良い生活や仕事の機会を求めて自発的に移動した人を指します。この違いは、受け入れ国での法的な扱いにも大きく影響します。

    難民問題の長期的な解決策にはどのようなものがありますか?

    UNHCRは、故郷の情勢が落ち着いた後に帰る「自主帰還」、逃れた先の国に定住する「現地統合」、第三国が受け入れる「第三国定住」の三つを長期的な解決策として位置づけています。状況に応じて現実的な選択肢は異なります。

    難民支援にはどのような国際機関やNGOが関わっていますか?

    UNHCRを中心に、食料支援を担う世界食糧計画(WFP)、子どもの教育や保健を支える国連児童基金(UNICEF)、移動や登録の実務を担う国際移住機関(IOM)などが連携しています。加えて、各地域に根ざした難民NGOが、現地に寄り添った支援を積み重ねています。