●牛はかけがえのない仲間 〜ニカラグアの牛飼いの話〜

(2006年2月1日更新 )

中米大陸のほぼ中央に位置し、主要産業を農牧業とするニカラグア。持続可能な農業開発を進める上で、牛は大変重要な役割を担っています。農地を耕し たり、丸太引きや近くの街まで薪を運ぶのにも利用されるなど、人びとにとって切っても切れない仲間です。とりわけ農業従事者と牛の間には特別な絆が育まれ るといいます。

ビスマルクは、首都マナグアから50km離れたサマリア村に住む33歳の牛飼い。これまで の人生の半分を牛とともに過ごしてきたビスマルクにとって、望むところへ牛を導くことはお手のものです。彼いわく、牛を導く方法は2つ。1つは牛の前を歩 いて指示する方法で、起伏が激しく危険を伴う場所を耕す場合に用いられます。もう1つは、牛飼いが一定の調子の声や音を出して、牛と意思疎通を図るという 単純な方法。牛はまるで魔法にかかったように、命令に従って進んだり方向転換をしたり、立ち止まったりします。

牛 の名前を呼んで指示することもあります。ビスマルクは白と茶色の牛を1頭ずつ飼っていますが、白い牛の名はなぜか「エル・カナリオ(カナリアのような青み を帯びた黄色)」。彼自身もその本当の名を最近知ったばかりで、不思議に思ったものの以前の持ち主がつけた名を引き継ぎました。茶色の方は「エル・オロ (金色)」。貴重品の金を彷彿とさせ、かつ、彼にとってその牛が大変価値のある存在であるという意味を込めて、ビスマルク自身が命名しました。

ビ スマルクはこの2頭が去勢前の若い牡牛だったころから世話をしており、自分と牛の間には素晴らしい関係が築けていると自負しています。「彼らがいれば、う ちの土地を耕すのにトラクターは要らないし、近所の人も耕してほしいとお願いに来るのです。52万・を耕して300コルドバ・オロ(約2,000円)を稼 いでいます」。

ビスマルクと牛たちの1日は朝7時に始まり、途中に何度か入る休憩では、牛たちはおやつ代 わりに草を食みますが、水は仕事が終わるまでお預け。というのは、水を飲むと体が重くなり、仕事振りが悪くなると信じられているからです。「とりわけ去勢 前の牡牛の場合、本当なのです」とビスマルクは不満そうに言いました。ビスマルクは、たいていの牡牛が2歳を迎える前に去勢されてしまうことを悲しく感じ るものの、牛が力強く働けるようにするためには払わざるを得ない代償なのだ、と自分に言い聞かせています。午後2時ごろにへとへとになって仕事を終える と、牛を自宅に連れ帰り、夜は囲いの中に入れて休ませます。若い牡牛は市場で9,500コルドバ・オロ(約6万4,000円)の高値がつくため、盗まれな いための自衛策も必要です。

牡牛の現役引退は16歳。歳をとるにつれ耳が遠くなり、食欲も落ち、中には歯 が抜けてしまうものもいます。こうして労働力としての役目は終えても、彼らと人間の間に培われた特別な絆は消えることはありません。牛は文句も言わず人び との一生の友であり続ける高貴な動物という考え方は、次の世代にも引き継がれていきます。

 
ビスマルクは、15歳の時に父親から牛の扱い方を教わったことを誇りに思っています。   ビスマルクの優しい掛け声に応じるエル・カナリオ(左)と、 エル・カナリオについて動くエル・オロ(右)
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